製薬業界で広がる「研究・営業以外」の採用ニーズ。いま求められる専門人材とは

製薬企業の採用ニーズは、研究開発やMRだけにとどまりません。医薬品の開発、承認、供給、患者さんへのアクセスを支える専門職に加え、データやAIを事業課題の解決につなげる人材も求められています。複雑化する製薬ビジネスのなかで、企業はどのような専門性の組み合わせを見極め、採用につなげていくべきなのでしょうか。

製薬会社の採用というと、研究開発職やMRなどの営業職を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

しかし現在の製薬業界では、こうした職種だけでなく、医薬品の開発から承認、上市、そして上市後の価値最大化までを支える、さまざまな専門職の重要性が高まっています。

例えば、医薬品や疾患に関する医学・科学的な情報を扱うメディカルアフェアーズ。規制当局との折衝や承認申請を担う薬事。製品や製造プロセスの品質を支える品質保証。薬価や保険償還、医療経済を考えるマーケットアクセス。そして、データやAIを活用して各部門の意思決定や業務変革を支えるデジタル人材です。

こうした「研究でも営業でもない」専門人材が、製薬企業の競争力を支える存在になりつつあります。

その背景にあるのが、製薬ビジネスそのものの変化です。

市場拡大より、「事業の複雑化」が採用を変えている

2025年の国内医療用医薬品市場は、薬価ベースで約11.7兆円となりました。

一方、より長期で見ると、市場全体が急速に拡大しているわけではありません。2015~2024年度の国内医薬品市場の年平均成長率は約0.4%にとどまっています。

つまり、市場が拡大した分だけ一律に人員を増やす、という構図ではありません。

大きく変化しているのは、製薬ビジネスの「複雑さ」です。

オンコロジーや希少疾患、再生医療・細胞遺伝子治療など、高度な専門性を必要とする領域が広がる一方、薬価や医療費をめぐる制度への対応、リアルワールドデータの活用、AI・DX、品質・コンプライアンスの高度化、グローバル組織との連携など、製薬企業が対応すべきテーマは増えています。

その結果、単純に「人数を増やす採用」ではなく、「特定の課題を解決できる専門人材を採用する」ことの重要性が高まっています。

研究・営業以外で、どんな人材が求められているのか

代表的なのが、以下のような領域です。

  • メディカルアフェアーズ:医学・科学的な観点から疾患や医薬品に関する情報を扱い、医療従事者とのサイエンティフィックエクスチェンジ、メディカル戦略の策定、エビデンス創出などを担う
  • 薬事・品質・CMC:医薬品の承認申請や規制当局との対応、製品・製造プロセスの品質確保、開発から商用化に向けたCMC戦略などを担う
  • マーケットアクセス:薬価、保険償還、医療経済、政策などの観点から、医薬品の価値をどのように評価してもらい、患者さんのアクセスにつなげるかを考える
  • データ・AI・デジタル:単なるIT担当ではなく、研究開発、メディカル、営業、品質、SCM、財務などの業務を理解しながら、データやAIを実際の事業課題の解決につなげる

こうした職種は、研究によって生み出された医薬品を「開発する」「承認を取得する」「安定的に供給する」「価値を伝える」「患者さんに届ける」という一連のプロセスを支える重要な機能です。

採用を難しくしているのは、「複数の専門性」が求められること

さらに採用を難しくしているのが、一つの専門知識だけでは完結しないポジションが増えていることです。

例えば、

  • 医学・科学の専門性 × 英語 × データリテラシー
  • 品質・CMCの経験 × デジタル・システムの知識
  • 薬価・保険償還の知識 × 医療経済 × 事業戦略
  • 製薬業界の専門知識 × AI・データ × プロジェクトマネジメント

といった組み合わせです。

特にグローバル製薬企業では、専門知識があるだけではなく、海外チームと議論し、異なる専門性を持つ複数の部門を巻き込みながらプロジェクトを前に進められる人材が求められるケースも少なくありません。

これは、ファイナンスや人事など、一見すると他業界にも共通する職種でも同様です。

定型的な経理業務や人事オペレーションだけではなく、経営計画や意思決定を支えるFP&A、事業部門とともに組織・人材戦略を考えるHRBPなど、より経営や事業に近い役割が重視されています。

製薬業界の採用は、「どの職種の人を採るか」だけではなく、「どの専門性を掛け合わせた人を採るか」という視点が重要になっています。

AIによって、「人に任せたい仕事」も変わっていく

AIや自動化の進展も、この流れをさらに加速させる可能性があります。

安全性情報の定型的な処理、品質関連文書の作成支援、営業レポート、経費処理、人事オペレーションなど、ルール化・標準化しやすい業務は、今後さらにAIやシステムによる効率化の対象になっていくでしょう。

一方で、

「この安全性情報をどう評価するのか」

「どの品質リスクを優先して対応するのか」

「どのような薬価・アクセス戦略を取るのか」

「どのアセットや疾患領域に経営資源を配分するのか」

といった、専門知識を前提に判断し、その判断に責任を持つ仕事の重要性は、相対的に高まっていくと考えられます。

そのため採用でも、単に「その業務を経験したことがあるか」だけではなく、

「その経験を使って、どのような課題を解決してきたのか」

「どのような判断をしてきたのか」

「部門をまたいで、どのように意思決定を前に進めてきたのか」

を見ることが、これまで以上に重要になります。

これまでと同じ職種名、同じ求人要件だけで候補者を探していると、企業が本当に必要としている人材と、実際の人材市場との間にずれが生じる可能性があります。

まとめ

製薬業界の採用において、今後ますます重要になるのは、単に「経験者を採用する」ことではありません。

自社がこれから直面する課題を明確にし、その課題を解決するために「どの専門性の組み合わせが必要なのか」を定義すること。

それが、これからの製薬業界における採用の重要な視点になっていくのではないでしょうか。

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